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【図書新聞連載】図書館に会いにゆく――出版界をつなぐ人々

利用者の心をどうやってつかむか――図書館も編集者もやっていることは同じ
音訳者ボランティアの組織化、企業コラボなどトップクラスの障害者支援で注目集める
第3回 新宿区立戸山図書館・大城澄子館長

新宿区立戸山図書館(東京)は、他の図書館から視察を受けるほどレベルの高い障害者向けサービスを提供している。その原動力となったのは、2009年4月から館長を務めている大城澄子氏だ。利用者が何を望んでいるのかをトコトンまで突き詰める大城館長は「図書館はメディア」と考えている。編集者の血があふれる大城館長に戸山図書館での実践について話を聞いた。(聞き手:図書新聞・諸山誠)

録音図書製作のマニュアル策定

大城澄子館長
大城澄子館長

 ――戸山図書館では、新宿区の方針に基づき障害者支援サービスの充実に取り組んでいると聞く。館長就任時からどう取り組んできたのか。

 「健常者はすぐに出版された本を読むことができるが、活字を読むことが困難な方はそれができない。そこで、視覚障害者等の録音図書(音声デイジー)をできるだけ早く届けたいと考えた。それには、制作スケジュールをきっちり管理する必要があったので、音訳ボランティア『声の図書館研究会』の方々との連携を密にした。具体的には、毎月1回の定例会を開き、各タイトルの進行状況、新たに音訳するものなどを全員で確認し、共有するようにした。また、進行管理のために、図書1点ずつに専用の仕様書を作成したうえ、録音図書製作のための統一マニュアルも策定した。全国統一マニュアルができる3年前のことだ。それによって、これまで年間8タイトルだった製作点数を50タイトルに増やすことができた」

 ――全盲の視覚障害者の人は、どのような図書サービスを享受することができるのか。

 「地域の公共図書館では、蔵書している点字図書や録音図書の貸し出しのほか、読みたい図書の問合せに対して、ネット上にあるサピエ図書館(約89万件の点字図書・録音図書を取り揃えるデータベースサービス)、東京都立図書館、国立国会図書館で当該図書を検索し、そこにあればダウンロードして貸し出している。戸山図書館ではリクエストに応じて、音訳されていない図書を録音図書化している。指定管理を受託している民間企業が、録音図書を製作しているのは非常に珍しい。音訳は一朝一夕にできるものではない。アクセントが異なっていたり、誤読があったりすると、1冊の本の朗読を聴くのはとても辛い。そこで、永く音訳者として活躍し、指導者となっている方やNHKの日本語センターの協力をえて、特別プログラムのセミナーを、音訳ボランティアの方々を対象に実施し、音訳者の育成やレベルアップに努めている。デイジー編集(章や見出しごとに移動できるなど、視覚障害者の利便性を高めるための編集作業)においても、音声デイジー図書を製作するNPOのデイジートーキョーによる研修も行った。国立国会図書館が昨年9月から公共図書館向けに音訳図書のダウンロード(DL)サービスを開始したが、そこに戸山図書館で製作した300点の録音図書のデータを提供している。半年経て、3960回(300点で)もDLしていただいた。しかも300点すべてが4回以上DLされている」

利用者と懇談会 自立支援に一役

 ――録音図書はどのような基準で製作しているのか。

 「私たちは、いただいた録音図書のリクエストに対して、ありません、できませんと言って断ることはない。視覚障害者の方が情報を得ることは聞くことがすべてだから、その人のために届けたいというのが根本の考えにある。そのためには、まず利用者ニーズを把握しないといけないので、視覚障害の方と音訳者と我々図書館が集まって、どういう録音図書が必要なのか、意見をうかがう利用者懇談会を開いている。実は『リンパドレナージュ』という録音図書が貸出の週間ランキングで2位に入ったことがある。それは視覚障害の方が、マッサージ師を職業とするケースが多いからだ。今でも貸し出しは多いが、この図書は音訳されて初めて図書館で活かされたのではないか。他にも、社会福祉士を目指す視覚障害者の方のために、同研究会を総動員して500ページを超える参考書をカセットテープ50本分の録音図書にした。その方は翌年の試験で合格した。具体的に私たちが支援したことが形になり、ポジティブな生き方に変わっていく。そうやって彼らが自立して生きていくための支援をすることこそ図書館がすべきことと考える」

市民と企業の橋渡し役も

 ――図書館のみにとどまらず、企業ともコラボレーションして、障害者支援に取り組んでいるようだが。

 「視覚障害者の方だけでなく、学習障害の方にも効果があるマルチメディアデイジー図書(音声に画像データを加えたデイジー図書)を、新宿区の図書館全館(中央館と地域館8館)で導入し、貸出を行っている。『わいわい文庫』というマルチメディアデイジー図書は伊藤忠記念財団が製作したものを無償で提供していただいている。こちらは健常者にも貸出ができる。ほかにも、社会貢献活動として、バリアフリー映画の普及に取り組んでいる住友商事の協力を仰ぎ、映画作品に音声ガイドや日本語字幕を付けた映画の上映会を他の図書館に先駆けて開催してきた。障害のある人も健常者も一緒に、近所の図書館で映画を楽しむことができれば、心のバリアフリーに近づくのではないかと思っている。2015年度は60館まで活動が広がる予定。こうしたサービスを必要とする市民、それを提供したい企業との橋渡しをするのも図書館の役割だと考える」

 ――障害者支援において、出版社に要望したいことは。

 「法整備も伴うため将来的な話だが、墨字本や電子書籍の製作におけるテキストデータを購入できるようにしていただきたい。アクセシビリティ型電子図書館構想だが、健常者が利用できる電子書籍と視覚障害者等が利用する音声図書、同じデータをどちらにも利用できることが理想だ。今はIT化が進み、音声読み上げソフトの性能も向上している。テキストデータさえあれば、機械が正確に読んでくれる。人の声もいいが、早く情報を伝えることができる」

 ――図書館員よりも編集者としての経験が長いと聞いた。図書館入口での特設展示や館内の図書の見せ方の改善など、編集経験を活かした図書館運営をしている。

 「入口は図書館の導入部分。映画で言えば予告と一緒なので、入口がつまらなかったら、素通りされてしまう。そこで図書館が何をしているかを伝えるために、パネル展示をするようにした。今は開通した北陸新幹線を取り上げている(4月30日まで)。パネル前の机には近隣のイベントなどを掲載したチラシを敷き詰めている。以前は何もなく、素通りだったことを考えれば、そこに立ち止まって見てもらうだけでも十分役割を果たしている。館内では文庫などでスタッフが決めたテーマに沿って、図書を面陳している。書店でいうフェアだが、違いは古い本があるところ」

メディアとして多様な情報発信

 ――これが、大城館長が考える「図書館はメディア」ということか。

 「図書館は本を借りるだけでなく、様々な情報を得る場所、交流の場所になることが重要だ。クラシックコンサートや落語会、朗読会、講演会など、昨年は90回のイベント(おはなし会を含むと146回)を開催し、様々な情報発信に取り組んでいる。本が嫌いな人・読みたくない人でも、イベントであれば来てもらえるし、そこから本に興味を持ってもらえるかもしれない。要はイベントもパネル展示もフェア棚も、利用者にとって面白く興味あるものをと心がけている。これは雑誌づくりと同じで、半歩先のテーマや情報を提案すること。読者・利用者の心をどうやってつかむか、図書館員も編集者もやっていることは同じ」

 ――一部の出版社が図書館の貸出増加が書籍の販売に影響しているとして、新刊書の貸出猶予を求めている。出版社出身として理解できるか。

 「気持ちはよく分かる。だが、複本を購入して数百人に貸し出すことが、本が売れない要因とは思っていない。出版社が力を注いでつくった本でも、市場で売れないことが多々ある。逆に図書館はそういうものを置いている。出版流通に乗らない地方出版社の書籍も探して購入する。文化を守ろう・支えようという出版人の気持ちが分かるので、そういう図書を図書館が買い支えることができればいい」

図書新聞 第3207号 2015年05月23日 (土曜日)より 許可をいただいて転載しています。
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