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【図書新聞連載】図書館に会いにゆく――出版界をつなぐ人々

想像し、創造できる場としての図書館を目指して
出版社や書店に図書館で本を販売してもらうというのはどうだろうか?
第1回 江戸川区立篠崎図書館 篠崎子ども図書館 吉井潤館長

ここ数年、出版界と図書館との協業・コラボレーションをテーマにするシンポジウムやセミナーが増えてきた。一方で、今も一部の出版社から図書館に対して、「発売6カ月後から貸し出してほしい」などと訴える声が上がっている。

児童書や専門書などの出版社にとっては、すでに図書館は〝お客様〟という認識だが、それ以外の出版社にとって、その距離はまだ遠い。そこで、今回、名物の図書館長やライブラリアンを紹介する隔週連載「図書館に会いにゆく――出版界をつなぐ人々」をスタートする。

第1弾は、このほど青弓社から初の単著『29歳で図書館長になって』を上梓した東京の江戸川区立篠崎図書館と篠崎子ども図書館の吉井潤館長に図書館の運営方針や出版界との協業などについて話を聞いた。(聞き手:図書新聞・諸山誠)

土地柄を意識して自治体情報の収集を

吉井潤館長
吉井潤館長

 ――2013年に29歳で江戸川区立篠崎図書館と篠崎子ども図書館の館長に就任してから、どのような方針で図書館を運営しているのか。

 「2つある。ひとつ目は、図書館員は土地柄を意識すること。図書館は金太郎飴でない。地域には特性があるので、図書館もその土地柄を意識したほうがいい。篠崎は大型のショッピングモールなどがない住宅地。しかも子育てのために引っ越してこられる夫婦が多く、戸建てやマンションの建設ラッシュが続いている。新しく移り住んでこられた方は、まず江戸川区の特産が〝小松菜〟であることを知らない。そこで、今年1月に従来の小松菜よりも葉物独特のえぐみがなく甘みも増してとても食べやすく、火を通さないで食べることができる、サラダ小松菜を栽培する江戸川区農業経営者クラブ会長の真利子伊知郎さんに講演していただいた。これをきっかけに、普段はほとんど活用されない小松菜に関する地域資料も利用されるようになった。子ども図書館では4月29日に、クラゲで有名な山形県鶴岡市の加茂水族館の奥泉和也館長に講演していただく。実は、江戸川区は鶴岡市と友好都市提携を結んでいる。その縁で来ていただけることになった」

 ――土地柄を知るためには何をすればいいか。

 「一番いいのは、自治体職員さんへの挨拶回り。ほかにも、自然動物園など近隣の施設も回った。とくに4月の人事異動を終えてから回ると効率的だ。そこで得た情報はすぐには使えないかもしれない。しかし、加茂水族館の件は、西葛西駅にある東京出張所に挨拶に伺っていた縁でもある。様々な情報はいずれ実を結ぶはず。あと、学校には絶対に行くべき。図書館のイベントの告知チラシを学校に置いてもらえたり、教師が興味をもてば大勢で来てもらえたりする。それに、学校を見ればある程度、地域の状況も見えてくる」

 ――ふたつ目は。

 「図書館を使って想像と創造をできるようにすること。そのための仕掛けとして、私がよくやるのが、本を出版した人の講演会。たとえば、水中写真家の長島敏春さんが2013年の春に子ども図書館にご自身の著書を持参して来館された。石垣島のサンゴを紹介したものである。9月に写真の撮り方と石垣島の魅力と、絶滅の危機に瀕しているサンゴ礁について講演していただいた。長島さんは『サンゴは海の環境そのもの。サンゴは温暖化など環境の変化に敏感です。自然は有限だと感じました。人間は自然を知る必要があり、自然との共生が大切です』と言われていた。この本をきっかけに、参加者にいろいろ考えてほしいという狙いもあった。図書館のイベントをきっかけに想像し、創造する。そういう場を目指している」

 ――自治体との関係で意識していることは。

 「図書館は自治体組織の一部である。自治体として、何をやりたいかを把握していないといけない。最近は2020年の東京オリンピックの機運を醸成するのが江戸川区の課題のひとつ。それで所管部署から何かできないかと、話があった。オリンピック研究を行っている首都大学東京の舛本直文教授に1964年に開かれた東京オリンピックについて講演してもらった。日ごろから自治体の情報を入手し理解することが大切である」

開館5周年を迎える篠崎子ども図書館
開館5周年を迎える篠崎子ども図書館

 ――同館に赴任して2年経ったが、課題はまだあるか。

 「もっと多くの人に利用してもらいたい。篠崎図書館は移転して7年、子ども図書館はまもなく開館5年を迎えるが、古くからある他館に比べて利用者数が少ない。もっと認知度をあげる取り組みをしていく」

 ――資料費の削減という問題については。

 「ありがたいことに、私が勤めてきた自治体は、資料費は潤沢だった。だからといって、必要以上に複本を購入していたわけではない。むしろ図書館が買うべきもの、河出書房新社の『伊能図大全(全7巻)』のような個人で購入しづらい高額本であったり、拡大鏡やルーペで読書するのは大変なので大活字本であったり、そういう幅広い品揃えを意識している」

ネット普及が予約増の原因

 ――著書の中では図書館と出版界の連携について書いていた。図書館の貸出や予約についての考えを教えてほしい。

 「あれだけ予約数が増えたのは、ネットで予約できるようになったから。例えば、本屋大賞を取ったのでとりあえず予約するという人が多い。その中に、本当に読みたい人がどれだけいるのかが、分からない。そこで提案したのが、10分に限定して予約者に試し読みをしてもらい、借りるかどうかを決めてもらう手法。そうすれば、予約数も減るだろう。それに、都市部に住んでいれば書店にも本は置いてある。早く読みたい人は書店で買ってほしいというのが私のスタンス」

 ――自治体の要請なのか分からないが、予約多数本の寄贈を求める図書館もある。

 「購入して複本にしたくないという気持ちはわかる。苦慮があるのもわかるが、よいことではないと考える。特に小説などのベストセラーを早く読みたい人は書店で買ってもらうように促すことができればよい」

議論整理すれば4者の共存可能

 ――著書には、書店の出張販売という提案もあったが。

 「最初に赴任した山梨県の山中湖村に書店はなかった。そういう地域の図書館で予約が増えるのは仕方がない面もある。館長の方針で複本は買っていなかった。今でも覚えているのは小説『ダ・ヴィンチ・コード』に予約が50件入っても2冊目は買わなかった。だが、早く読みたい人もいるのだから、図書館が出版社や書店から一時的に予約多数本を預かって販売する。もしくは出版社や書店に特定の日に図書館に来てもらって販売してもらうというのはどうだろうか、と思った。都市部と地方では書店の数や規模も違う。議論を整理すれば、作家、出版社、書店、図書館が共存できると思う」

 ――一部出版社から貸出を6カ月ほど猶予してほしいという要望も出ているが。

 「そもそも図書館が購入する新刊本は、選定から図書館用の装備を施して、最終的に図書館へ納品されるまでに約3週間はかかる。書店とは違ってタイムラグがある。書店がない自治体もある。それさえ知ってもらえれば、貸出の猶予は難しいと理解していただけると思う」

図書新聞 第3202号 2015年04月11日 (土曜日)より 許可をいただいて転載しています。
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著作

▼吉井潤著『29歳で図書館長になって』
2015/2/10刊、四六判二二二頁・本体二〇〇〇円・青弓社

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