イチオシ図書館イベント
  1. ホーム
  2. トピックス
  3. イチオシ図書館イベント
  4. 「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

2016年10月2日(日)14時より、大阪府立中央図書館のライティホールにて、「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」を行い、70名を超える方々にご参加いただきました。
この講座は、増山実先生の著作『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』が第四回「大阪ほんま本大賞」を受賞したことを記念して開催されたものです。

※大阪ほんま本大賞とは:大阪の問屋と本屋が力を併せて、ほんまに読んで欲しい1冊を選ぶ「OsakaBookOneProject(OBOP)」が2013年に発足しました。授賞対象となる本の条件は、①大阪に由来のある著者、物語であること ②文庫であること ③著者が存命であることの3点です。また、本の販売で得られた収益の一部を社会福祉施設を通じて、大阪の子供たちに本を寄贈するというミッションを持つプロジェクトでもあります。詳細は公式Facebookにて

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館 「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

記念対談のお相手には、放送作家としての増山実先生の先輩であり、東大阪が地元でもある疋田哲夫先生をお迎えしました。

増山 実(ますやま みのる)
1958年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。出版社に勤務後、放送作家に転身。「ビーバップ!ハイヒール」(朝日放送系)のチーフ構成などを務めている。2012年、「いつの日か来た道」で、第19回松本清張賞の最終候補に。同作を改題した、『勇者たちへの伝言』でデビュー。
疋田 哲夫(ひきた てつお)
1948年奈良市出身。放送作家集団「オフィス自由本舗」代表取締役。日本放送作家協会員(関西支部監事)。代表作「部長刑事」「夜はクネクネ!」「11PM」「EXテレビ」「鶴瓶・上岡パペポTV」「ちちんぷいぷい」「せやねん!」ほか多数。平成4年「第21回上方お笑い大賞『秋田實賞』」受賞。

イベントHPより)

疋田先生は増山先生の10年先輩の放送作家で、今回は増山先生の著作『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』を読まれて大変感動し、対談を引き受けてくださったとのことでした。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

対談ではまず、「大阪ほんま本大賞」が持つミッションのことに触れました。大阪ほんま本大賞では、大賞受賞作の販売で得られた収益の一部を社会福祉施設を通じて、大阪の子供たちに本を寄贈するというミッションを持っています。これまでに10万冊、310万円分の本が、大阪の各施設に寄付されたそうです。

次に、増山先生が放送作家になるまでについて話されました。増山先生は最初出版社に勤めておられたそうですが、なんと歌手の嘉門達夫さんと高校時代の同級生だったということで、会社員として勤める傍ら、嘉門達夫さんの歌を作詞したりしていたのが始まりだったそうです。「私はバッテラ」は増山先生の作詞だそうですが、皆さんご存知でしょうか?(歌詞はこちら

その後増山先生は放送作家を目指すことになり、嘉門達夫さんについて回っていたとのこと。ここで疋田先生と、放送作家集団「オフィス自由本舗」につながりができたとのことでした。しかし、そこですぐに疋田先生に師事したのではなく、疋田先生の弟さんに「他人のふんどしで相撲を取るつもりか?」と言われて「それもそうだ」と思い、また、「27歳での放送作家スタートは遅い、他人と同じことをしていたのでは間に合わない」とも考えて、増山先生は独自の方法で放送作家としての道を歩み始めたのだそうです。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

増山先生が、その頃に疋田先生から言われて心に残っていた一言が「新聞に載った情報は遅い、一次情報が一番大事」ということでした。疋田先生ご自身もその頃放送作家として作っていた番組「夜はクネクネ」で、現在ではどこでもやっている「街ブラもの(タレントが街をぶらぶらしてレポをする)」をほぼ初めて実施していたそうで、「当時は画期的だった街ブラもの、これも一次情報ですよね」と話されていました。

疋田先生は『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』の見どころは「ドキュメンタリーの要素がかなり反映されているところ」「事実に基づいているから面白い、手に汗を握り感動した」と述べられています。増山先生はそれを受け、作中で主人公が「昭和44年の西宮住宅地図」を調べるために西宮市立中央図書館へ行く個所に触れ、「僕も同じように、昭和44年の西宮住宅地図を調べるために西宮市立中央図書館へ行って調べて、それを小説に反映した」と話されました。地元の方に「あんな昔のことを良く覚えていたね」と話しかけられたそうですが、「図書館での調べ物を反映した成果」だそうです。
また、作品について増山先生は「フィクションはフィクション、ノンフィクションはノンフィクションと分類が分かれてしまっていて、作品も全く別になっているものが多いが、事実とフィクションが入り混じった小説があってもいいのではないか」と考え、「事実はそのまま描いた方がリアルではないか?」と思い、球団名や名前などは実名のままにして作品を創作したそうです。
「子どもの頃読んでいたマンガ『巨人の星』などでは、球団名「巨人」や選手の名前「王」「長嶋」はそのまま出てきた、野球マンガの世界では現実とフィクションがそのまま溶け合っていて、それが親しみを感じる元となり、リアルな感じも受けた」現実とフィクションが溶け合った『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』作品世界のもととなったのは、こどものころに読んだ野球漫画だったのでした。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

今回の作品を書くきっかけとなったエピソードについても語っていただきました。増山先生は放送作家になりたての頃、朝日放送の元プロデューサーでテレビ時代劇『必殺仕置人』の脚本も書かれていた荒馬間さん(本名:古市東洋司さん)の脚本塾に通っていたことがあり、その際に1作だけ書いた習作を荒馬間さんにとても褒めていただいたそうです。その時から「君は小説家になるよ」と言われ、毎年の年賀状にも「小説を書いていますか」と気にかけていただいていたとのこと。その後、放送作家として多忙となり、小説のことは忘れていましたが、2006年の春、同じ番組で脚本を書いていた百田尚樹さんに小説を書いていることを告げられ、その作品『永遠の0』が大ヒットとなったことに刺激を受け、さらにそれから4年後、電車の中でふと「いつの日か来た道」を空耳として受け取ったそうです。この体験は作品の中でも「西宮北口」のエピソードとして使われていますが、その言葉を聞いたときに、「この言葉で小説を書こう」と思い立ったのだそうです。それから600枚、多い日には1日10枚以上、1年以上の時間をかけて執筆し、『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』は完成したとのことでした。

この作品のタイトルについては、角川春樹さんからアドバイスがあったという裏事情についてもお話いただきました。松本清張賞の最終候補となったこの作品でしたが、角川春樹さんご本人が原稿を読まれて、「これは本にしよう!」と決断、単行本にして下さったのだそうです。疋田先生と増山先生は角川春樹さんについて「天才なんだよ」「目利きがすごいんですよね」と語られました。しかし、角川春樹さんは挨拶に訪れた増山先生に開口一番「タイトルが良くないよね、このままだと絶対売れないよ」と仰ったとのこと。「内容はいいけどタイトルは変えましょう、『勇者たちの伝言』はどう?」と言われた増山先生は、当初そのタイトルにピンとこず、いったん保留にして持ち帰りました。しかし、その晩に作品を読み返してみて、「これは確かに勇者たちからの伝言だ」と思えたため、『勇者たちへの伝言』と「へ」を付け加え、もともとのタイトルをサブタイトルとして、『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』としてもらうように角川春樹さんに改めてお願いし、快諾されていまのタイトルになったとのことでした。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

本の表紙を飾ったイラストについても知られざるエピソードをお話し下さいました。表紙の絵は木内達朗さんという、池井戸潤さん、重松清さんほか数多くの作品で表紙を描かれている大変有名な画家さんに描いていただいたのですが、最初に上がってきたイラストでは、人物がかぶっている帽子が赤色になってしまっていたそうです。阪急ブレーブスの帽子は1971年から赤色となり、長く親しまれていたのでその色で描かれたのですが、作品ではそれ以前の時代が描かれており、その当時、帽子は黒色だったそうです。有名な作家さんにせっかく描いていただいた表紙絵で、どうしようかと悩まれたそうですが、「ファンであれば帽子の色が違うのは絶対にわかってしまう」「ここで帽子の色が違えば、作品内での歴史考証が全ていい加減に思われてしまうだろう」と思い、この点だけは譲れないと描き直してもらい、現在の表紙となったとのことでした。幸い木内達朗さんにもこの装画は気に入っていただき、HPでも帽子の色について言及があります。(東京イラストレーターズソサエティ (TIS) | 作家 | 木内達朗

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

そのほか、話は二作目の『空の走者たち』についてやタイトルへのこだわり、今回の対談に先立って行われた作品の読者会で出た作品への質問から、「探偵ナイトスクープ」時代のエピソードなど、話題は多岐にわたりました。当時のテレビを見ていた方々にも、作家志望の方々、また今回の作品に興味を持って集まっていただいた皆様にお楽しみいただけたのではないかと感じています。

最後に疋田先生から「どんな小説家になりたいの?」と尋ねられた増山先生は、「フィクションとノンフィクションが溶け合い、ジャンルに特定されない小説を書きたい」「この本、どこに置いたらいいのか? と書店で迷うような本が書きたい」と話され、「ジャンルの置きようがない作品を書き続けて、“増山実”が1ジャンルとして確立できたらいいのではないか」と二人で語られました。この話を受け疋田先生は、「賞を目指すのではなくて、自分のポリシーを貫くことを目指してほしい」と先輩として増山先生にエールを送っておられました。

対談のあとは、会場のロビーで増山先生によるサイン会が行われました。イベントの30分前に会場に入り心待ちにしていた方から、当日ふらっと参加された方まで、『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』を手にしてサイン会の列に並び、増山先生に西宮のこと、阪急ブレーブスのこと、ブレーブス跡地のショッピングモールに飾られている西宮球場のジオラマ展示のことなどについて話されていました。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館 「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

イベントの裏方として運営していた図書館スタッフも本を購入して最後尾に並ばせていただき、サインを書いていただきました。また、今回のイベントを記念して、色紙にもサインと作中の言葉「未来は今日の掌の中に」を書いていただきました。作中ではある野球選手の言葉として出てくるこの言葉は増山先生の創作だそうで、「選手が実際に言った言葉だと思ってた!」とサイン会で驚きの声が上がりました。フィクションとノンフィクションが溶け合った世界観に引き込まれてしまいます。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館 「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

増山実先生は大変気さくでお優しい方で、大阪府立中央図書館に併設されている「まちライブラリー」の分も快くサインを書いてくださり、「まちライブラリー」の展示までご一緒いただきました。今なら大阪府立中央図書館1Fロビーにある「まちライブラリー」にて、『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』をお手にとってご覧いただけます。本の中には増山先生直筆のコメントも書かれていますので、興味をお持ちになった方はぜひ実際に手にとり、中をご覧になってみてください。

「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館 「大阪ほんま本大賞」受賞記念 第1回府民講座「増山実先生 記念対談・サイン会」@大阪府立中央図書館

掲載:2016.10.11