片言隻語<塾長の言葉>
塾長:高山正也
新時代の図書館員養成を目指すライブラリー・アカデミー
現代の情報環境
かつて、21世紀は情報化社会、知識集約社会といわれ、コンピューター・リテラシーは必須の条件とされた。今や、その21世紀になり、三旬目に差し掛かりつつあり、技術革新の成果が情報技術、人工知能(AI)等でわれわれの生活のあらゆる側面に浸透している。一方、最近の傾向として、世代別の情報に対する感覚の差異、情報入手の経路の差異が顕著になっている、との指摘がされている。具体的にはマスメディアに対する反応である。今やオールドメディアと呼ばれる新聞や地上波放送に対して、団塊の世代以上の高齢者層と若年層とではそれらメディアとの対応が全く異なると言われる。対オールドメディアのみならず、若年層が好むネットベースのSNSの利用についても、同様に逆の傾向があると言われている。
このような状況は、当然、民主主義社会の基盤を構成し、現代の主権者たる公民の知的教育の基盤となる公共図書館の世界では大問題となるはずであるが、残念ながら、現在の日本の図書館界からは、この件に対しての大きな声は聞こえてこない。わずかに、図書館の主たる情報基盤となる蔵書構成との関係で、出版界のデジタル化への図書館界の対応をどうするか、という形で少数論じられる程度である。このような情報源への対応の差異のためか、世代層ごとの標本数を考慮しない在来型の統計分析、推計値は、現実の結果との間に大きな齟齬を生み出す結果となった、と言われている。新しい公民、主権者世代の情報行動は従来とは大きく異なるようである。
このような情報行動に大きな差異をもった世代が共存する現代の図書館は、必然的に従来の図書館とは異なった活動が要請され、その運用には新たな図書館専門職が要請される。要するに現在70歳台に入りつつある団塊の世代から上の世代を対象に成立した図書館モデルは、もうこれからの21世紀においては通用しないということでもあり、そのような図書館にふさわしい図書館専門職が必要である、ということでもある。
これからの図書館
一方、少子・高齢化社会を迎えるわが国の社会教育も、教育内容の拡大や対象者の多様化に加え、自治体の財政的な緊迫化への対応を、従来にも増して考慮する必要が顕著になっている。すなわち、新たな指定管理者制度の下での図書館の発展的再構築は不可避となっている。しかし、日本の現状では指定管理者といえども、十分な識見能力を有する有能な図書館職従事者を十分に確保しているとは言い難い。
そこでライブラリー・アカデミーでは、このような混迷する図書館界の状況を打開し、日本の文化的な伝統に即した図書館を実現し、日本のソフトパワーとなる図書館を真に国際的な活動水準に近づけるという目標を掲げて、いささかの努力を続けている。図書館職員の専門・教養両側面での能力を高め、高度な教養に裏付けられた国際水準の図書館を実現すべく、それら図書館の現場で働き、コミュニティー文化のリーダーたるにふさわしい人材の養成を始めている。
ここで養成することを目指しているのは、単に図書館の内部的な課題を技術的に解決し、業務の改革を図るというだけでなく、図書館に潜在的、顕在的に期待される諸要求を地球規模の文化的、歴史的観点から検討し、新たな革新的創造的な提案ができ、指導出来る人材、すなわち日本の次代の文化的なリーダーともなりうる人材である。
ライブラリー・アカデミーとは
そこで、このライブラリー・アカデミーの教育・研修とは、単なる従来型の図書館のエキスパートの養成だけにとどまらず、真の専門職としての高度な使命感と熟達した専門知識と技能に裏付けられた「高度知的専門職」の養成にある。図書館は従来型の出版物や情報資源の無料貸出や提供サービスの機関としてだけでなく、今後の学園や地域や国(民族)の文化の象徴として、その地域や組織のアイデンティティや誇りの源泉であるべき機関と考えている。それゆえ、その図書館の館長や司書は地域文化のリーダーであり、推進者・指導者であると言える。
このような発想のもとで初めて、少子・高齢化が進み、成熟化社会を迎える日本を再活性化させ、日本文化の誇り高き伝承の使命を担う図書館は、有能な誇り高い知的専門職たる図書館長や司書によって導かれなければならない。そのような図書館は併せてわが国の高等教育機関や社会教育の根本的な改革の拠点ともなり、21世紀の豊かな日本文化発展の礎となるであろう。