続・片言隻語

第8回 図書館は如何に「チャットGPT」に対応すべきか
第9回「デジタル技術革新下の図書館:生成AIと図書館」はこちら

 昨今、急に対話型 AI 「チャットGPT」(あたかも人間と対話しているように自然な文章を生成する対話型人工知能サービス)の採用を巡る論議が高まってきた。いわゆる西側先進国(G7諸国)の中には、その採用には慎重であったり、当面一定の監視下に置いて、その影響を見守ると言う慎重な諸国も出現しているが、わが国では閣僚の中からも、国会審議における閣僚や、政府委員の質問に対する答弁案の作成に応用することで、事務当局の過重な労働環境の改善に資することが可能ではないかとの意見等も公表されている。
 ただ、一方では「対話型人工知能(AI)サービス(チャットGPT)」に代表される生成AIを巡り、この生成AIが人間の内面に直接的に介入すると言うことに着目し、その利用に際しては慎重であり、留意すべきであるという論調が出現してきた。要するに極めて大雑把ではあるがわかりやすく言うなら、「AIと言う人工物に人間社会や、個人の思想や行動が支配されることになってよいのか?」と言う疑問である。
 もちろん人工知能技術は日進月歩である。デジタル化を推進する「デジタル革命」と言われる技術革新(innovation)が進めば、対話型人工知能サービスはより、人間相互間の対話や、コミュニケーションに近いものに進化するであろう。だが所詮、生成AIは人工物であり、誰か特定の人間がその人間の価値観の基に、調整したアルゴリズムで作られている。それ故、今世界を二分している、自由民主主義国家と専制権威主義国家に二分すれば、ロシア、中国に代表される専制権威主義国家では極めて採用されやすいし、すでに採用されているかもしれない。しかし、G7の日本を含む自由民主主義国家を標榜する諸国での採用は慎重な対応となると思われるし、そうならざるを得ない。
 分野によっても異なるであろう。例えば、科学・学術論文を対象とする分野、特に「抄録作成」や、カレント・アウエアネス・サービスにおける「新着書籍・文献紹介」等に応用することは作業の生産性向上に大いに資するものと思われる。しかし、創作文学に代表される芸術分野、時事的報道分野等の諸分野での採用にはある種の限界があり、活用するにしても最低限、その限界を明示して、活用する必要があるだろう。
 その事を前提に図書館ではいかにこの生成AIを活用できるであろうか。筆者は浅学・寡聞にして、未だ日本の図書館界からこの生成AIの利活用に関する動向や意見の表明を知らない。上記の観点に立てば、学術研究図書館等での活用は大いにありうると考えられるが、公共図書館での利活用には時間がかかるであろう。何故なら、学術研究図書館の対象とする情報空間は比較的小規模であり、その正しい・あるべき情報の基準も設定しやすいが、公共図書館の対象とする情報空間でのあるべき標準を決める基準は必ずしも客観的に鮮明とはなりえない。しかし、技術革新の成果としての生成AIであるなら、その生成AIの受容、すなわち、「チャットGPT」の作成した文章の読み取り技術・ノウハウを読み手が習得している状況・環境の成熟も求められる。そのように技術が単独に社会に影響するだけでなく、技術を受け入れる社会の、技術の受容水準が進化することで、「技術革新」が成立するからである。
 となれば、情報の利用者として、少なくとも図書館利用者、書籍読者のデジタル・リテラシーの改善・向上プログラムの検討と実行が必要ではないであろうか。このリテラシー教育こそ、デジタル化に際しての教育面での最重要課題となるはずであるが、AI技術の進歩に比較して、デジタルデバイド拡大防止の社会教育・生涯学習の社会的取り組みが日本では今一つ感じられない。デジタルデバイド防止策教育は図書館界が取り組むべき重要課題の一つと考える。


高山正也 

(掲載日:2023年5月1日)

TOP