続・片言隻語

第11回 デジタル・イノヴェーションの襲来:電子情報資源の書誌コントロールに向けて(前編)

はじめに
 パンデミックが終わったら、その社会が大きく変化するとの予言は、筆者だけでなく多くの人が同じ趣旨のことを言っており、歴史的にも証明されていることである。
 そして2023年連休明けの5月8日からcovid19は通常のインフルエンザ並みに扱われることになり、日本では一応パンデミックは終焉を見たことになった。それに加えて、日本は平成の世が令和になって、今年は5年目である。1989年をピークにバブル経済がはじけ、グローバル化のお題目の下に、世界最強の日本型経営は姿を消し、「失われた30年」とも言われる空洞化した日本経済、少子高齢化で日本社会は弱体化して30年前後が経過した。この日本を指導していた司令塔は、「日本株式会社」の司令塔とも言われた通商産業省であったが、同省は経済産業省と改名し、反日的国家群のみならず、グローバル資本という見えざる手にも導かれたかの如く、日本が大東亜戦の敗戦後半世紀にわたり、戦争を生き延びた日本人が血と汗の結晶で築き上げた「総中流国家;日本」とも、「世界最高の社会主義国」とも言われた経済大国日本の骨の髄までしゃぶりつくそうとする日本解体勢力の司令塔に変り果てているかの感じも無きにしも非ずである。それ故、そろそろ日本も覚醒し、社会が変わらないと本当に日本が崩壊しかねない時期でもある。
 その変化が今、まさに、起ころうとしている。それがデジタル・イノヴェーションである 。

G7 首脳の電子情報資源観
 さて過ぎ去った5月の話題は何といっても、連休明けに広島で開催された今年のG7サミット広島ではなかったかと思う。岸田首相にとっては、G7各国の指導者を従えて、議長国としてリーダーシップをとっているとの姿を広く報道させることで、大いにその政治的、外交的成果を国民にアッピールできたと考えているのであろう。
 そして今年は日本がG7の何度目かの議長国で、会議が日本国内での開催となり、開催地に広島が選ばれた。会議テーマとしてはウクライナ問題をはじめとする対中国国際安全保障問題や核兵器廃絶問題、経済的には自由民主主義国圏と専制・覇権主義国圏との通商問題等々、多くの課題を有した会議であったが、それら政治・経済的課題は本稿の目的ではない。本稿で取り上げたいのは20世紀後半の1960年代後半から現代にいたる長期にわたって、我々の身近に生じている、「コンピュータ化」の問題に関係する諸問題・課題である。
 素人表現をお許しいただけるなら、コンピュータが産業革命以来の人工の機械と異なる点は、その高度な計算能力により、人間(自然人)の思考を上回る(知的or学習)能力を有することにあると言われてきた。日本社会のコンピュータ化も20世紀の後半には我々日常生活の隅々にまで入り込み、工場の生産現場から家庭内の家具・家電、日用携帯品にまで及んで、その事での効率性の向上は日本の高度経済成長をある面で支えもした。そのコンピュータ化の基礎部品である半導体が、現在、自由主義国家群と、専制・覇権主義国家群との間での係争の一課題となっている。この半導体の供給体制の強化、再構築などはさしずめ、G7主要国首脳部の関心事となるのであろうが、さらにそれらに加えて、人工知能の技術革新の成果の応用・利用の在り方が話題になったようである。具体的には「チャットGPT」に代表される「生成AI」の活用をフリーの状態で認めるか否かをめぐり、自由・民主主義国家圏対専制覇権主義国間はもとより、G7主要国相互間内でもその主導権・派遣をどこが握るかでの討議の火花が散ったようである。

人工知能技術の進歩発展と人間社会の言論・表現の自由
 ともかくコンピュータが実用化されてやがて(2040年代になれば)約百年になるが、この間着実にその技術は進歩を続けている。
 今回広島のG7でこの進化するコンピュータ技術の中でも特に人工知能(AI)が取り上げられた。コンピュータ化は世界各地で、人間生活の隅々にまで浸透して概ね半世紀(50年)以上の時間が過ぎた。このことはそれだけの人間の思考についての学習をコンピュータ側も積んだことにもなる。皆様も経験しているように、手元の携帯電話(こんな古い日本語を使うのも後期高齢者世代の特徴ですが…)自動翻訳機機能を利用して、音声で日本語を吹き込むと直ちに指定の外国語での表現の音声が聞こえ、文字綴りが表示される。文章も、映像も要求に応じて答えが出てくる。「これを生成AI」ということはご承知のとおりである。
 最近、ハリウッドで、小一時間の映画を作成するにあたり、その脚本を生成AIで書かせたところ、見事な脚本が出来上がり、その映画の興行収入も予期以上との結果が出たと言う。そこでハリウッドの脚本執筆者の組合が早速、自分たちの職域確保のために会社側に脚本執筆に生成AIを使うことの禁止を要求したと言う。日本でも厚生労働省が2023年の6月初めに、労働市場の確保を生成AIの利用に際しては十分に注意する旨の方針を示している。要するに、生成AI を野放しで採用すると我々人間の生活や仕事や学習をはじめ、あらゆる側面での人間の権利や利害に影響を及ぼしかねない。そしてこのことが今、大きな社会問題になっている。
 さらに、日本でも最近ではSNSで人気のLINEが、今話題の生成AI である「チャットGPT」を用いて、要求された事項に関する文章の生成サービスを始めたと言う。多くの若年層の人たちが愛用するLINEが文章の生成サービスを開始すると、宿題やレポート作成はもとより、欠勤・欠席事由の説明にもLINEが活用(?)されかねない。こうなると単に権利の侵害だけでなく、人間の学習や教育の成果はもとより、社会の文化そのものにも影響が及び、2・30年もすれば社会の風習・慣行などが変化する。大げさに言えば、民族や国家・国民のアイデンティティーにも影響する。
 これ以外にも日本国内も含め、生成AIの使用を行政文書や、学校でレポート課題の作成などに利用してよいかなどの問題は枚挙に暇なく、文章だけでなく、映像や音響についても同じことが言える。要するに人間の思考や感情の領域がどこまで人工物である機械の利用に委ねることが出来るかと言う極めて哲学的で、人間存在の価値に関わる問題に結びつき、単に作業効率、生産性の向上などの水準を超えてしまうことが明白になりつつある。
 このような問題にG7各国はどのように対応するのか。今のところでは以下のような原則が承認されているようである。
 即ち、「法の支配の下で、人権尊重の大原則を前提に適正な手続きにより、AI技術進歩の成果を活用する事とし、民主主義社会の発展やデジタル技術革新を始め、人工知能進歩の機会を阻害することの無い様に配慮する」、と言う原則は確認されているが、現在問題となっているグローバルな偽情報(フェーク・ニュース)を利用した「認知戦」がG7各国をはじめ世界の主要国で広がっている現状に鑑み、生成AIの規制の在り方の議論を深め、2023年内にG7各国閣僚らによる作業部会や関係国際機関(OECD)等と連携して規制の在り方・方針等を纏める、と言う「広島AIプロセス」を発表した。
 国際的に視野を広げると、現在すでにウクライナ戦争のみならず、主要国間で認知戦や情報戦は厳しく現実化しており、日本もその例外ではない。このような影響か、例えば、このほど米国政府は国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)への復帰を決めた。その理由はユネスコでは現在、人工知能(AI)の活用や科学技術教育の振興などの最先端技術のルール作りを巡る議論が進められており、米国不在の中で中国が主導することになるのを防ぐ目的があると言われている。


高山正也 

(掲載日:2023年7月3日)

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