片言隻語

第11回 米国の司書の処遇の決まり方(1)

 米国の司書の処遇は、日本と異なり、館種毎に異なる。具体的に言えば、学校図書館の司書(日本のように司書教諭と言う資格はない)の待遇が平均すると最も低く、公共図書館、大学図書館、専門図書館と言う順で司書の平均給与水準は上昇する。そこで、図書館学校の修了者、専門職司書(Professional Librarian)の資格を得て特定館種での仕事に就職する人を除けば、一般には、最も職を得やすい、学校図書館からそのキャリアーをスタートさせる人が多い。そして、職場毎に一定の経験・実績を積み上げ、その実績に応じて次の職場へと移り、キャリア・アップするのであるが、その際には当然処遇の向上も視野に入っている。館種も学校から公共へ、公共から大学・研究へ、そして、専門図書館へと変わってゆく。問題はそのようなキャリア・アップと、所得の向上に関する、求人と求職の情報の出会いをどこで、誰が、どのように行うかであるが、実はALA(米国図書館協会)やSLA(専門図書館協議会)等の図書館関係の年次大会等の場において求人側、求職側が直接会い、相談、面接して決めるケースが多いのである。 日本でも毎年、図書館大会が開かれているが、近年は参加者数も低調である。その理由の一つには、各図書館の旅費予算の縮減により出張命令が出せず、そのために、図書館大会に行きたくとも行けないからだと言う。この事は日本では図書館関係の年次大会の参加は勤務先の出張命令により、参加費、旅費等を勤務先に丸がかえにしてもらっての参加が主で、自らの費用負担による自主的な参加が極めて少数であることを示している。見方を変えれば、少なからざる参加費、旅費を自己負担して参加しても、それに見合う価値効果が無いと言うことになる。それに引き換え、米国の図書館員たちは、大会への参加費、旅費を自己負担しても、この転職、求職相談で、新たな好条件の職場が見つかり、転職できれば、充分に自己負担した参加費や旅費のもとは取れるので、単に大会プログラムの魅力だけでなく、実利的な誘因に依っても、積極的に参加するのである。

 日本の司書の処遇は、専門職制の確立した米国とは異なり、職能ではなく雇用先の如何で決まる。即ち、公立の公共図書館であれば、かつては公務員司書が主であったから、公務員司書になると、司書ではなく公務員としての勤務先自治体の給与表に定められた等級で処遇が決まる。ところが、今や多くの公立の公共図書館は指定管理者によって運営されている。その結果、司書の処遇は指定管理者となった派遣業者等が決める。このような状況に於いて、本来、司書は処遇の良い職場(実質は自治体)の選択が可能であったはずであるが、現実には、指定管理者選定のための入札状況、即ち、自治体側が図書館運営計画に基づき指定管理者業者選定の一般競争入札公告に示した仕様書等の、要件(スペック・仕様書)に明示された条件によって決まるのである。したがって、高度な図書館サービスを実現する司書能力の如何によって、必ずしも指定管理者が選定されるのではなく、その自治体における司書の処遇が決まるわけでもない。一般競争入札への応札価格如何で指定管理者が決まり、その落札価格に応じて、司書の処遇が決まる事例が多く見られる。財政上の負担軽減上の要請で指定管理者制度が導入された結果、制度設計時の趣旨に反して、図書館のサービス水準の向上ではなく、図書館経費の縮減に入札の選定条件の主眼が置かれ、応札価格の安さにより決まる事例が多くなる。その結果、指定管理となった業者等における司書の処遇が、人件費を切り詰める結果として、悪化してゆくことになるのである。

高山正也 

(掲載日:2019年2月12日)

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